東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6156号 判決 1983年5月17日
原告 有限会社ウチダ
右代表者代表取締役 内田喜太郎
右訴訟代理人弁護士 竹下甫
同 鮎京眞知子
被告 株式会社 梅屋
右代表者代表取締役 作田亮
右訴訟代理人弁護士 小谷薫
主文
一 被告は、原告に対し、金三六〇万一〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年一月一日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、被告との間に、昭和五二年二月一七日、被告所有の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について極度額金二〇〇〇万円の根抵当権を設定するとともに、必要に応じて原告から被告に金銭を貸し付ける旨の基本契約を締結した。右根抵当権の被担保債権の範囲には、金銭消費貸借取引による一切の債権のほか、手形及び小切手上の債権、手形割引取引上の債権が含まれている。
2 原告は、被告に対し、前項の契約に基づき、次のとおり金銭を貸し付けた。
(一) 貸付日 昭和五二年七月一日
貸付金額 金八四万八〇〇〇円
弁済期 昭和五二年一一月二八日
遅延損害金 年七割三分
担保手形 別紙手形目録記載1の約束手形(以下「本件1の手形」という。なお、同目録記載のその余の約束手形についても同様に略称する)。
(二) 貸付日 昭和五二年一〇月六日
貸付金額 金九四万八〇〇〇円
弁済期 昭和五二年一一月二五日
遅延損害金 年七割三分
担保手形 本件2の手形
(三) 貸付日 昭和五二年九月二八日
貸付金額 金九〇万五〇〇〇円
弁済期 昭和五二年一二月三〇日
遅延損害金 年七割三分
担保手形 本件3の手形
(四) 貸付日 昭和五二年九月二八日
貸付金額 金九〇万円
弁済期 昭和五二年一二月三一日
遅延損害金 年七割三分
担保手形 本件4の手形
3 なお、仮に本件1ないし4の各手形が担保手形でないとしても、原告は、被告に対し、右各手形を割引く方法により前項の各金員を貸し付けたものである。
4 よって、原告は、被告に対し、貸金合計金三六〇万一〇〇〇円及びこれに対する弁済期後である昭和五三年一月一日から支払ずみまで約定利率を利息制限法の範囲内に引き直した年三割の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は否認する。
本件1の手形は、訴外梅屋ハウジング株式会社(以下「訴外会社」という。)が昭和五二年八月九日原告からその割引を受け、金八四万八〇〇〇円を受け取ったものであり、本件2の手形は、訴外会社が昭和五二年一〇月六日原告からその割引を受け、金九四万八〇〇〇円を受け取ったものであり、本件3、4の各手形は、被告が昭和五二年九月三〇日原告からその割引を受け、本件3の手形については金九〇万五〇〇〇円を、本件4の手形については金九〇万円を受け取ったものであって、右各手形の割引は手形の売買であり、訴外会社ないし被告が原告から金員を借り受けたものではない。
3 同3の事実は否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いがない事実に、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。
1 原告は、昭和五二年二月一七日、被告所有の本件不動産に根抵当権を設定させ、被告振出の約束手形をも担保に差し入れさせて、被告に金銭を貸し付けるという継続的取引を始めたが、貸付金額が増加するに伴い、担保手形として第三者振出の商業手形を要求するようになった。右の貸付取引をする際には、手形金額から満期までの日歩一〇銭程度の金額を割引料という名目で控除した金額を交付するのが常であり、右手形が満期に決済されれば貸付金の返済があったものとして扱うが、手形が不渡になった場合には、振出人や裏書人に対して手形金請求訴訟を提起するようなことはあまりしないで、被告に対する貸金債権(本件不動産についての根抵当権の被担保債権)として計上処理していた。原告が右のように第三者振出の手形を徴する際に、本件3、4の各手形のように被告が裏書したこともあるが、本件1、2の各手形のように訴外会社が裏書をし、手形面上に被告の名が表われないこともあったが、原告としては、訴外会社の実態も知らず、被告代表者の作田亮が訴外会社の代表者として表示されており、手形を差し入れ金銭を受領するのも常に作田亮であったため、被告の裏書の有無には関心がなく、本件不動産の担保価値と手形振出人の信用(特に前者)に重きを置いて取引を継続していた。
2 昭和五二年当時は不動産業が不振で、被告の営業活動は活発とはいえず、内装業を営む訴外会社の方が活動していたけれども、被告も休眠会社となっていたわけではなく、従業員もいたのであり、むしろ訴外会社には本件不動産のような資産はなかった。本件取引において、原告は納品書と題する計算書類を作成して現金とともに作田亮に交付しているが、右納品書の宛名は被告となっており、これを受け取った作田亮から何らかの異議が述べられたことはなかった。
3 本件取引において、原告が作田亮に交付した金額、その交付年月日、作田亮が原告に差し入れた手形の記載は、いずれも請求原因2で原告が主張するとおりである。
4 本件不動産についての根抵当権設定契約書中に、被告が原告に対する債務の支払を遅滞したときは、年七三パーセントの遅延損害金を支払うとの約定が存在する。
以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
三 右認定の事実によれば、本件取引は、形式上は手形割引の如くであるが、その実質は、本件不動産の担保価値をもっとも重視しつつ、商業手形をも担保に徴して行う手形貸付であり、割引料という名目で一定金額を控除した金額の交付があったときに、少なくともその交付額についての金銭消費貸借契約が原告と被告との間に締結されたものと解するか、あるいは本件不動産の担保価値をもっとも重視しつつ、手形割引という方法を用いて、原告から被告に交付額を貸し付けていたものと解するのが相当である。
そして、弁済期については、それぞれ本件1ないし4の各手形の満期と同一とされ、遅延損害金については、前記設定契約書の約定どおりの事前の包括的合意があったものと認められる(もっとも、約定利率のうち利息制限法所定の範囲内でのみ効力を有することはいうまでもない。)。
四 してみれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 上田豊三)
<以下省略>